際立つ個性がおもしろさ|はじめてのZINE案内


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楽しいおとなになるために
八重樫 紘子
ZINE(ジン)って聞いたことはありますか?
最近は大手メディアで紹介されることも増え、目にしたことがある方もいるかもしれません。
でも、「本屋さんに並ぶ本とは何が違うの?」「同人誌とは別物?」といった疑問も湧いてきます。
私自身、以前は「クリエイターやアーティストが自身の作品を個人的に冊子としてまとめたもの」という程度のイメージを持っていました。ところが実際にZINEに触れてみると、それに留まらない世界が広がっていると気づいた一人です。
そこで今回は、ブックカフェの選書も行っている筆者が、ZINEの魅力をご紹介します。

ZINEのルーツはSFファンから
ZINEとは、ひと言で表すと「個人が自主的に作る小冊子」のこと。
起源についてはいくつかの説があるようですが、有力なのは「1930年代頃のアメリカで始まった」という説。
SF作品を愛するファンたちが、自分たちの情報や感想を小冊子にまとめ、交換し合ったのが始まりだと言われています。
営利目的ではなく、あくまで「交換する」というカルチャーだったようです。
1970年代に入ると、その流れがさらに拡大します。
パンクロックの影響を受けた若者たちが、自分たちの音楽や文化を表現する手段としてZINEを制作。同時期にサーファーやスケーターたちの間にも広まっていったのだとか。
DIY精神が息づく制作スタイル
ZINEを語る上で欠かせないのが、「DIY(Do It Yourself)精神」。
出版社を介せず「自分で作って自分で広める」その姿勢こそが、ZINEの核となる部分です。
すべて一人で制作する場合もあれば、デザイン等は得意な人に依頼するケースもありますが、どこまで自分で担うかも含めて制作者の自由です。
制作過程において、もちろん法や権利を守る必要がありますが、この自由度の高さがZINEらしさと言えそうです。

商業出版や同人誌との違い
商業出版との明らかな違いは「出版社が関わらない」という点です。
一般的な書籍は出版社が版元となり、編集者や校正者、デザイナーなどがチームで制作していますが、ZINEの場合はすべて制作する個人の裁量で判断していきます。
同人誌もZINE同様に自主制作の冊子ですが、こちらは二次創作が多い傾向があるようです。
そうは言ってもあくまでも「傾向」に留まるので、ZINEとの明確な線引きは無いのだとか。
「何がZINEで何が同人誌か」には捉われず、個々の表現を楽しむのが良さそうですね。
実際のZINEを見てみよう!内容は多種多様
ZINEが「個人が自主制作する冊子」とわかっても、実際どのようなものなのかが気になるところですよね。
私がこれまでに実際に購入したものをいくつかご紹介してみたいと思います。
『ロイヤル日記』佐々木里菜

ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」に行った日の出来事だけをまとめた日記です。
読んでいると店舗による雰囲気の違いが浮き彫りになってきて、この店舗も行ってみたいな、次はこのメニューを頼んでみよう、とロイヤルホストに行きたい欲がむくむくと湧いてきます。
日本テレビ系「ZIP」でも紹介されていた一冊です。
『EXIT』YOROCCO BEER & YUMI SAITO

鎌倉のクラフトビール醸造所「YOROCCO BEER(ヨロッコビール)」とフォトグラファーのYUMI SAITOさんの、LA旅行の記録。
写真をメインとした構成で、写真集のように楽しむことができます。
現地のブルワリーの様子、ビールや食事について紹介されており、美しい写真からはLAの日差しや風が感じられるよう。
見ているだけで旅に出たくなるZINEです。
『ほんと』伊東友子

内容は、文章や本を書くこと・読むこと・作ることにまつわるエッセイ集なのですが、驚いたのは「紙で遊んでいる」ということ。
ところどころ、折り加工が施されているんです。
商業出版のエッセイ集ではなかなか見られないと思い作者の方に伺ってみたら、なんと一冊一冊ご自身でページを折っているとのこと。
内容もさることながら、紙やページの使い方にこだわった冊子があるのもZINEならではと言えそうです。
『ミスドスーパーラブ』トーキョーブンミャク

ミスタードーナツにまつわる思いや思い出を、31人のクリエイターがさまざまな表現で綴ったアンソロジー。
グラフィック、短歌、小説、童話、エッセイ、ヴィジュアル作品などが一冊に詰め込まれています。
「はじめてZINEを手に取るけど何を選べばいいかわからない」という方は、複数の作者が合作したアンソロジーを選ぶのもおすすめです。
読んでいる間に「この人の考え方好きだな」「文章が読みやすい」など、好みに合う作者に出合えることもありますよ。
他にも、詩歌や小説、評論、イラスト集、雑誌風の冊子など、本当に内容はさまざま。作者の興味が赴くままに作られているのがZINEなのです。
どうやって手に入れられるの?3つの入手方法
ZINEを手に入れる方法は大きく3つに分けられます。
①販売会で出合う
「文学フリマ」や「ZINEフェス」などのZINEの販売会は、全国各地で実施されています。
中でも、文学フリマの東京会場での開催は、最大級の販売会と呼んでも過言ではありません。
2025年5月11日の開催時には、出店数はなんと3,191ブース、一般来場者数が11,261人だったのだとか。わずか5時間の開催でこの規模です。注目度の高さが伺えますね。
販売会の良さのひとつは、「偶然の出会い」です。
どんなものを読んでみたいかわからなくても、歩いていたら表紙が目に留まったことをきっかけに購入したら心に残る一冊になることも。
さらに、作者本人が販売しているケースが多く、制作の裏側などを直接聞くことができるのも面白さの一つです。

②書店で探す
最近は「独立系書店」と呼ばれる小規模な書店や、有隣堂など大手チェーン書店の一部店舗でもZINE販売コーナーが設けられているケースがあります。
特に独立系書店は、選書担当者の個性や好みがラインナップに反映されやすく、店の世界観が色濃く出るのが特徴。
個人の世界観を自由に表現したZINEとの相性が良いのかもしれません。
③オンラインで購入する
書店のオンラインショップや、ZINEの作者が個人でオンライン販売をしているケースもあります。
作者のSNS等で販売サイトのURLが掲載されていることもあるので、すでに欲しいZINEが決まっている場合はこちらの方法もおすすめです。

型にとらわれない自由な表現!ZINEを手にとってみよう
ここまで、ZINEは「出版社を通さず個人が自主的に作る冊子」であり、内容もジャンルも多様だということを見てきました。
それぞれが個々の自由な発想で作られている冊子だということを感じていただけたら、嬉しく思います。
個性が反映されるからこそ、自分とは違った見方が面白いと感じたり、新たな視点を得たり、今まで知らなかったことにふと興味が湧いたり。それが、ZINEのおもしろさです。

偶然手にとった一冊が、新たな興味の扉を開いてくれるかもしれません。
どこかで見つけたら、ぜひ一度手に取ってみてください。
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